時に笑い、時に苦しみ、時に涙する。すべてはグランドへ。
ソフトボールを通して成長していく小学生とその保護者、スタッフの物語。
逡巡(しゅんじゅん)。
迷いを巡らすこと、ためらうことを意味します。
このじげんカップ、今シーズン1番に迷う場面が二度ありました。それは……
坂下さん、新鶴さんとのリーグ戦になった時点で、高田イーグルスは2連勝での勝ち上がりを目指していました。
しかし、初戦の坂下ヒーローズ戦を5:6で落としてしまいました。
高田イーグルスが決勝に進むための条件が複雑になってしまいました。
その条件を正確にとらえて、どうするべきかの最善を探るのが指導者の役目です。
まずは、三チームが一勝一敗でならぶこと、そして失点差で上回ることです。
新鶴さんには、坂下ヒーローズさんに勝ってもらわなくてはなりません。ここは他力。
そのうえで、高田イーグルスが新鶴さんに勝つこと、なるべく失点を抑えて、新鶴さんの失点を多くするように得点するというかなりの狭き門となります。
規模は違いますが、今のワールドカップアジア予選の日本代表のような心境です。
新鶴さんの奮戦により、6:4で新鶴さんが勝ちました。
となると、高田イーグルスは、新鶴さんに勝つだけではいけません。
最低でも2点以上離して勝たなければ決勝には進めません。3点ならばなお良し。
厳しい条件になりました。しかし、やるしかない。やるなら今しかねえんです!
得点を多く取るためには先攻を選ぶことになります。もし後攻で僅差で勝っていたならば、裏の攻撃は出来ません。その場合、2点以上離すという条件をクリア出来にくくなります。
先攻をとって引き離すしかありません。
そのためにはこの新鶴さんの初回が大事になってきます。
投球練習を見る限り、コントロールが定まらない様子。ここは見ていった方がいいか?
そういいながら、初球攻撃でサードフライに倒れるレン。
新鶴さんのピッチャー、タツキの立ち上がりを援護するかたちになりました。
戦術的には、ドラクエの作戦であれば、じっくりいこうぜ!の場面です。
しかし、レンの頭の中は、がんがんいこうぜ!だったようです。
相手ピッチャーの不安定になりやすい立ち上がりで、様子を見ることを徹底させるべきでした。
レンであれば、ツーストライクまで見させることもできます。
バントという選択肢もあった。
なんでもできるレンだからこそ、自由を与えない方がよかったのかもしれません。
ここは長打よりも、最優先は出塁でした。
レンならば大丈夫と高をくくっていた我々の責任でもあります。
次回は同じ轍を踏まないようにインプットしておきます。
レンが簡単に倒れたことで、なんとなく流れが悪くなりました。
続くコタローが会心のピッチャー強襲を放ちますが、タツキが抜群の反応で捕まえます。
このコタローの完璧に捉えたり当たりが抜けなかった……
反応したタツキを褒めるしかないんですが、これでさらに流れは新鶴さんに向きました。
あら、やべーな。
ここは簡単に三人で切られるわけにはいかねえなぁと思っていると、我々の意図をくんだユウキがセンター前に運びます。
こういうところが、ユウキなんです。
我々が、というかみんながこうして欲しいとおもっている通りのことをやってくれる。
今回も三人で切られれば、完全に新鶴さんに流れがいってしまうところでした。
そして、4番のペイ。
ツーアウトなので、長打を期待してしまいます。
ここは狙っていい場面。
しかし、アウトコース中心の攻めで三振してしまいます。相手ピッチャーのタツキ、荒れ球ですが、要所要所ではいい球がきます。
やるな、タツキ!
とシァアなみにつぶやいてみますが、得点を捕りにいったところを押さえられてしまいました。
またしても流れに乗れない。
またまた暗雲が垂れ込めてきました。
そしてそれは裏にまで波及します。
ここはピシッと抑えて、次の回の攻撃につなげたいところです。
先頭をセカンドゴロに打ち……あっ、セカンド名手アユキがシングルキヤッチで捕りに行ったところを、トンネルしてしまいます。
ん?どうしたアユキ。ショートバウンドの反発の強さ、ゴロへの入り方のリズムを誤ったようでした。
やっちまったと痛恨の表情。
幸いカバーが早かったので一塁に止めます。
んー、またまたなんか悪い雰囲気。
先頭バッターを打ち取ったのにアウトカウントが稼げない。
ピッチャーのエンジンがかかるのが遅くなってしまいます。
こういう時に、当たり前のことを当たり前に出来るチームが強いんです。
ただ、セカンドアユキはまだ四年生。
彼に全ての荷を背負わせるのは間違いです。
こういう失敗をして、身にしみて覚えていくもの。
今後彼はこういった強い打球への警戒心が一層強くなるでしょう。それでいいんです。
このエラーした経験を次に活かす覚悟をもてば今回の失敗は無駄にはならない。
しかし、ミスから始まってしまった。
続く2番は押さえなくてはいけない。
これも打ち取ったあたりが、ライトにあがります。
レオ、落下点に入るのが遅いなぁ……ん、ギリギリだな、あっグローブに入ったな、よし!ん?
ポロリ。
あぁ~、あちゃー。
またしてもエラーで出塁を許す。
エラーがエラーをよぶの負の連鎖。
これが始まってしまった。
さて、うちのエースのユナは大丈夫かなと見てみる。
悲愴感はなく、笑顔もひきつってはいません。
目の前のピンチに立ち向かおうとしています。
まっすぐ見つめる先にはシュンペイがいてくれます。
バッテリーはあたふたしていない。
大丈夫です。このふたりならば大丈夫。
そしてこのバックならば大丈夫。
無死一二塁で、三遊間に致命傷になるくらいの強い打球が飛びます。
抜ければホームラン性のあたり。
一二塁で3番バッターなので深めに守るショート、レンのゾーンに入りました。
逆シングルで押さえて、すかさずサード送球。
ほぼ全ての動きが完璧な所作。
レンの動きにはいっさいの無駄がありませんか。
ここで、キャプテンという役割のレンがチームを救うくさびになりました。
ここでレンが食い止める!
なんとか1点でしのぎます。
2点差で勝つという厳しい条件を背負っているのに、さらに出血をしいる闘いになります。
現段階で3点以上取らなければならない。
どこかでビックイニングを作らなくてはいけない。
この意識にとらわれはじめます。
このマスト(~しなければならない)の意識は、のびのびプレーに鎖をまきつけます。
経験上、このしなければならないという考えになった時点で、縛られてしまいます。こうなると中々いい結果はでてくれません。
これを打破する何か欲しいところですが、2回表の高田イーグルスの攻撃、はやくも連続三振で2死となりました。
こちらが落ちていくと反対に上り調子の新鶴さんのエース、タツキを前に打つ手がない。
ユナも追い込まれてしまいます。
ここはユナに任せるしかない。
ユナも追い込まれて、帰って集中力が冴えてきたようです。
きわどいコースを見極めます。
そして、選んだファーボール。簡単に三人では終わらないという高田イーグルスの強固な意志を示してくれました。
と、ここから少し流れがかわります。
続く、アユキにもファーボール。
そして、ラストバッター、レオ。
その背後には、ゴォゴォゴォゴォというジョジョばりの「俺に打たせろ!俺まで回せ!」というオーラをまとったレンが鎮座します。
レオが決めてもいいんです。長打力があります。しかし、この荒れ球に対して、何でもかんでも振るタイプのレオは分が悪い。
なんとかレンまでまわしてくれ~。
みんなの思いがひとつになります。
それが通じたのか、レオはデットボールで出塁することができました。
さぁ、さぁやってきました千両役者。満を持して高田イーグルスのレンを送り出します。
ここで満塁ホームランがでれば、4点をとることができます。
それを狙ってできるチカラがレンにはあります。
それを新鶴さんもわかっている。
なので、ピッチャータツキはギアをおもいきりあげます。
自然とチカラが入るタツキ。
球威はありますが、すべて高めに浮いてファーボール。押し出しで1点。
次のバッターは、コタロー。
長打力よりもミート力、いろんな状況への対応力を買ってこの2番という打順に存在します。
さぁ頼むぞコタロー。
ピッチャーはコントロールに苦しんでいるから、ボールを打たないように、じっくり……
初球のアウトコースのボール球に手を出してあっさりアウトでスリーアウトチェンジ。
じっくりいけという前に終わってしまいました。
結果的には、レンとの勝負をさけて、1点をくれてでもコタローと勝負をした新鶴さんの勝ちです。
ここはもっと点数が欲しかった。
相手ピッチャータツキはコントロールに苦しんでいました。
レン対してもストライクが1球も入っていなかった。
試合が終わってからの反省点として、初球から行くときとじっくりいくときの徹底が必要だと思いました。
1:1の同点。
この裏の新鶴さんの下位打線、先頭とその次を三振できってとり、ますが、ラストバッターをファーボール。なんとか1番を打ち取って、ゼロで抑えます。首の皮一枚でつながっています。
まだのぞみはある。
時間的に3回が最終回となります。
2点をとって、裏を守り切ることが決勝進出の条件。
この回の上位打線、先頭は3番のユウキからです。
ユウキならば、なんとか出塁してくれるだろうという期待が膨らみます。
前の回をユナとペイのバッテリーとバックがきっちりゼロで押さえてリズムを作っています。
そして、ここ最近のユウキはバッティング絶好調。
私はチームとして、みえない相乗効果があると思うんです。いいリズム、流れというのがピタリと歯車のようにはまる時あります。
ギアボックスのように、小さい力を大きくできる時がある。
もっているチカラ以上のことができる場合があると思うんです。
出塁してくれるだろうなという我々の期待を大きく裏切ってホームランにしてしまうユウキ。
打った瞬間にホームランだとわかる打球でした。
こいつはすげぇなぁと、サードベースを駆け抜けていくユウキを見て感心するしかありません。
ユウキのホームランが高田イーグルスの消えそうな闘志の炎にガソリンをぶちこんでくれました。
ボルテージはどんどん上がります。
そしてやってくるあの雰囲気。
「もしかしたら、俺たちやれるんじゃねえ?」
この錯覚にも似た根拠のない自信。盛り上がるあの状態。
そして、次打者はシュンペイという好打順です。
ペイの顔は俺もやってやる!という闘志に溢れています。
目の前でユウキのホームランを見てます。
ぁぁ~、チカラ入ってんなとすぐ見て取れる。
一息ついて肩の力を抜けといいましたが、おそらく焼け石に水でしょう。
まぁこの場面は一発狙っていいでしょう。
ここはシュンペイに頼むしかない。
長打狙いで、きっちりふりきります。
力でレフトに運び二塁打とします。
続くタイチ。
先の試合でタイムリーヒットをセンターに打っています。ぶんぶん振り回すだけではなく、チームバッティングもできるということを証明してくれました。
ここはヒットが欲しいところですが、ボールをきっちり見極めてファーボールを選びます。
よくやったタイチと小さいガッツポーズ。
こう土壇場でボールを見極めることができるようになったんだなあとタイチの成長を確認します。
さて、タイチが帰れば文句なしの決勝進出です。
この大事な場面、ノーアウト一二塁でマナト。
ここ最近、打撃フォームの改造に取り組んでいました。
前までの当てるだけの手打ちの打撃とは明らかに違ってきています。
打球の速さ、強さが違う。
これまでのマナトとは違うぞというのを、この厳しい実戦の中でこそ発揮してほしいところです。
しかし、タツキも押さえるのに必死です。
マナトにのぞむのはヒット。
ヒットでなくても、ゴロの進塁打。
三振、フライはだめです。
タツキとマナトの激突、ここは三振でした。
その振りを見るに、まだ迷いがあります。
打席に立つ前に、一か八かか当てにいくかの方針の整理、こころの整理がすんでいない様子。
そして、実戦ではなかなか結果が出てくれていません。
なのでますます自信をなくしていく。
それが顔に出てしまっています。
マナトもこころのプールが浅い。
それでもいい、大丈夫だ、信じて進め!
そういうところのフォローが今後も必要だと思いました。
1死一二塁。
ここでエースのユナ。
ユナが倒れると2死一二塁になってしまう。
そうなると1点をとることが更に困難になってしまいます。
ここは仕掛けるしかない。
シュンペイの目をみて、行けと無言のメッセージを送ります。
このあたり、あのほおのき戦のテンカイを思い出します。
今年のチームも目で会話ができまでになったきた。感慨深い。
シュンペイが三塁に到達。
1死で一三塁。ゴロで待望の1点をもぎ取ることができます。昨年の幅を広げました。
しかし、ユナはセカンドフライ。
内野フライではランナーは帰れません。
2死で一三塁。
なんとしても1点をあげなればならない。
バッターは8番のアユキ。
どちらかというとつなぎ役の四年生。
この大一番ではかなり舞い上がっていることは容易に予測できます。
となると、仕掛けなければなりません。
サードコーチャーボックスから、監督を見ます。
監督も私と同じ意図を理解したようです。
それでも迷いました。一回目の逡巡。
タイム!
ん?タイム、かけちゃうかぁ。
ここは私であっても迷う場面となりました。が、監督はタイムをかけました。
一塁ランナーがタイチ。器用なタイプではありません。シュンペイもあせるタイプ。
ここは攻撃のタイムを取ってでも確実に作戦を伝えることを監督は選びました。
タイチには誘導、おとりの進塁を指示し、シュンペイにはタイチがひきつけるスキをついて本塁に突っ込むことを伝えました。
この指示の場面を見ていて、これは監督の確実性がより高いタイムをとってからの指示の方がいいと思いました。
そのほうが両ランナーに迷いが生じない。
相手チームが何か仕掛けてくるとわかってしまっても、作戦を確実に伝えることを選んだ監督が頼もしく見えました。
自分で考えて立案、実行する決断力。
教え子ながら彼も確実に成長しています。
仕掛けます。
タイチをすすすーっと出す。
しかし、新鶴さんのキャッチャーのケイシンもすぐには投げない。
タイチがおとりとして機能しません。
ここでピッチャーサークルに素早く投げられたらば、帰塁するか進むかの二択となり離塁アウトの危険性も出てきます。
おとりをすぐにあきらめて、タイチを進めます。
2死で二三塁。
おとり作戦は未完に終わりました。
アユキ、さらに不安の表情が見てわかります。
さて、どうする?どうする、どうする?
サードコーチャーボックスからシュンペイを見る。
小声で、いきますか!
突っ込んで失敗したら、即終わりのこの状況。
行けというにもかなりの勇気がいります。
今日二枚目の逡巡、迷い、どうしていいかわからず、もう一回シュンペイを見ます。
闘志があふれ出ています。
よーし、わかった。やろう!
ここでやってくるとは、我々以外にわかるはずもない。奇襲としては最高のタイミング。
よし、ここはシュンペイにかけました。
ホームスチールを敢行します。
いけーとシュンペイの背中を押します。
突っ込むシュンペイ。
ホームイン……と思いきや主審にボールが当たっていました。
当たっただけなら、インプレーですが、拾ってしまった。
その時点でボールデッドになり、シュンペイのホームスチールは無効になりました。
起死回生、渾身の仕掛けが空振りに終わります。なんという、何という不運。
もう1球待っていれば、もう1球早く仕掛けていれば……
高田イーグルスにふりかかった不運を呪うしかありません。
奇襲失敗。
この後、2回続けてのホームスチールは私にも決行できませんでした。
無策。
アユキに任せるしかありません。
この重要な場面を弱冠四年生に任せるしかない場面。そうであったとしても、アユキも腹はくくったようです。
果敢に振りにいきますが、空を切る。
追い込まれました。
そして、投げた瞬間にストライクの高さだとわかるコースにスローモーションで、タツキの放った球が入ってきます。
アユキ、あ~ぁと思っても手が出ません。
見逃し三振でゲームセット。
アユキにもストライクだとわかったはずです。
しかし、体が蛇ににらまれたカエルのように反応しなかった。反応できなかった。
自分の目の前をチームの息の根を止めるストライクが入っていくのに、なすすべがない。
とんでもないプレッシャーがのしかかっていたはずです。
しかし、そのプレッシャーに負けてはいけない。
ただ食われるだけのカエルであってはいけない。
今は負けてもいい。
今はまだ手がでないかもしれない。
ただ、この見逃し三振をアユキは忘れてはいけません。
いつか、こういう重大な場面で起死回生の一打を放つ役割が必ずめぐってきます。
いつかくるその時のために、この見逃し三振を次に活かさなくてはいけません。
そうしないと、アユキはもちろん、チーム全体、みんなが浮かばれません。
さて、アユキにはどういう練習をしたらいいものかを考えます。
1番のくすりは、こういう場面を何回も経験させること。
そして、少しずつでもいい結果が出るように、いろんなチャレンジをしていくこと。
少しずつ、少しずつ自信という名の武装をしていきましょう。
そうすることで、いつか蛇を倒すカエルに育つはずです。
それはなにもアユキだけではなく、高田イーグルスのひとりひとりが、そういうカエルの戦士にならなくてはならない。
我々は、そういう気骨のあるカエルのこころざしを彼らの中に育ていきましょう。
あの土壇場の中で、
「コーチ!(ホームスチール)行きますか!」
シュンペイが見せた気骨のあるカエル。
数年前は、打てなくて泣き、守れなくて泣き、負けて泣いていたシュンペイ。
そんな彼もいろんな強さと優しさが備わってきました。
つくづくソフトボールとはそういうひとりひとりの強さの掛け算だと思います。
ひとりがもっている強さの幅。
その最大のところを引き出せば、実力以上を発揮する。
その反対もしかり。
コンスタントに幅の右側の大きいところを引き出せるように我々は練習しています。
ピンチの時にも、チャンスの時にもそれができるかどうか?
それはこころの持ち方に依存しています。
今回の新鶴戦、土壇場で見せたシュンペイの気概。
あれは成功してほしかったなぁ。
しかし、今度こういう場面がきたならば、シュンペイは成功させるでしょう。
そして、シュンペイだけでなく、メンバー全員にも同じ気概をもって、来るべき時に備えるべく準備をしていきます。
かくして、第2回じげんカップ、高田イーグルスは予選敗退で幕を閉じました。
貴重な主催大会で結果を残すことはかないませんでした。
それはそれで、残念で申し訳ないと思います。
しかし、この結果を次に活かすこと。
あーぁ負けた負けた、仕方ない、残念だ、それだけで終わらないこと。
これこそが、保護者のみなさんが高田イーグルスに期待していることであり、われわれ指導者も、選手自身もそうありたいと思っています。
またしても地べたにはいつくばった、カエルたち。
ひとりひとりのカエルは何を思うのでしょうか?
晩秋の空。
次週、ほおのき杯、高田イーグルス単独チームで挑みます。
迷いを巡らすこと、ためらうことを意味します。
このじげんカップ、今シーズン1番に迷う場面が二度ありました。それは……
坂下さん、新鶴さんとのリーグ戦になった時点で、高田イーグルスは2連勝での勝ち上がりを目指していました。
しかし、初戦の坂下ヒーローズ戦を5:6で落としてしまいました。
高田イーグルスが決勝に進むための条件が複雑になってしまいました。
その条件を正確にとらえて、どうするべきかの最善を探るのが指導者の役目です。
まずは、三チームが一勝一敗でならぶこと、そして失点差で上回ることです。
新鶴さんには、坂下ヒーローズさんに勝ってもらわなくてはなりません。ここは他力。
そのうえで、高田イーグルスが新鶴さんに勝つこと、なるべく失点を抑えて、新鶴さんの失点を多くするように得点するというかなりの狭き門となります。
規模は違いますが、今のワールドカップアジア予選の日本代表のような心境です。
新鶴さんの奮戦により、6:4で新鶴さんが勝ちました。
となると、高田イーグルスは、新鶴さんに勝つだけではいけません。
最低でも2点以上離して勝たなければ決勝には進めません。3点ならばなお良し。
厳しい条件になりました。しかし、やるしかない。やるなら今しかねえんです!
得点を多く取るためには先攻を選ぶことになります。もし後攻で僅差で勝っていたならば、裏の攻撃は出来ません。その場合、2点以上離すという条件をクリア出来にくくなります。
先攻をとって引き離すしかありません。
そのためにはこの新鶴さんの初回が大事になってきます。
投球練習を見る限り、コントロールが定まらない様子。ここは見ていった方がいいか?
そういいながら、初球攻撃でサードフライに倒れるレン。
新鶴さんのピッチャー、タツキの立ち上がりを援護するかたちになりました。
戦術的には、ドラクエの作戦であれば、じっくりいこうぜ!の場面です。
しかし、レンの頭の中は、がんがんいこうぜ!だったようです。
相手ピッチャーの不安定になりやすい立ち上がりで、様子を見ることを徹底させるべきでした。
レンであれば、ツーストライクまで見させることもできます。
バントという選択肢もあった。
なんでもできるレンだからこそ、自由を与えない方がよかったのかもしれません。
ここは長打よりも、最優先は出塁でした。
レンならば大丈夫と高をくくっていた我々の責任でもあります。
次回は同じ轍を踏まないようにインプットしておきます。
レンが簡単に倒れたことで、なんとなく流れが悪くなりました。
続くコタローが会心のピッチャー強襲を放ちますが、タツキが抜群の反応で捕まえます。
このコタローの完璧に捉えたり当たりが抜けなかった……
反応したタツキを褒めるしかないんですが、これでさらに流れは新鶴さんに向きました。
あら、やべーな。
ここは簡単に三人で切られるわけにはいかねえなぁと思っていると、我々の意図をくんだユウキがセンター前に運びます。
こういうところが、ユウキなんです。
我々が、というかみんながこうして欲しいとおもっている通りのことをやってくれる。
今回も三人で切られれば、完全に新鶴さんに流れがいってしまうところでした。
そして、4番のペイ。
ツーアウトなので、長打を期待してしまいます。
ここは狙っていい場面。
しかし、アウトコース中心の攻めで三振してしまいます。相手ピッチャーのタツキ、荒れ球ですが、要所要所ではいい球がきます。
やるな、タツキ!
とシァアなみにつぶやいてみますが、得点を捕りにいったところを押さえられてしまいました。
またしても流れに乗れない。
またまた暗雲が垂れ込めてきました。
そしてそれは裏にまで波及します。
ここはピシッと抑えて、次の回の攻撃につなげたいところです。
先頭をセカンドゴロに打ち……あっ、セカンド名手アユキがシングルキヤッチで捕りに行ったところを、トンネルしてしまいます。
ん?どうしたアユキ。ショートバウンドの反発の強さ、ゴロへの入り方のリズムを誤ったようでした。
やっちまったと痛恨の表情。
幸いカバーが早かったので一塁に止めます。
んー、またまたなんか悪い雰囲気。
先頭バッターを打ち取ったのにアウトカウントが稼げない。
ピッチャーのエンジンがかかるのが遅くなってしまいます。
こういう時に、当たり前のことを当たり前に出来るチームが強いんです。
ただ、セカンドアユキはまだ四年生。
彼に全ての荷を背負わせるのは間違いです。
こういう失敗をして、身にしみて覚えていくもの。
今後彼はこういった強い打球への警戒心が一層強くなるでしょう。それでいいんです。
このエラーした経験を次に活かす覚悟をもてば今回の失敗は無駄にはならない。
しかし、ミスから始まってしまった。
続く2番は押さえなくてはいけない。
これも打ち取ったあたりが、ライトにあがります。
レオ、落下点に入るのが遅いなぁ……ん、ギリギリだな、あっグローブに入ったな、よし!ん?
ポロリ。
あぁ~、あちゃー。
またしてもエラーで出塁を許す。
エラーがエラーをよぶの負の連鎖。
これが始まってしまった。
さて、うちのエースのユナは大丈夫かなと見てみる。
悲愴感はなく、笑顔もひきつってはいません。
目の前のピンチに立ち向かおうとしています。
まっすぐ見つめる先にはシュンペイがいてくれます。
バッテリーはあたふたしていない。
大丈夫です。このふたりならば大丈夫。
そしてこのバックならば大丈夫。
無死一二塁で、三遊間に致命傷になるくらいの強い打球が飛びます。
抜ければホームラン性のあたり。
一二塁で3番バッターなので深めに守るショート、レンのゾーンに入りました。
逆シングルで押さえて、すかさずサード送球。
ほぼ全ての動きが完璧な所作。
レンの動きにはいっさいの無駄がありませんか。
ここで、キャプテンという役割のレンがチームを救うくさびになりました。
ここでレンが食い止める!
なんとか1点でしのぎます。
2点差で勝つという厳しい条件を背負っているのに、さらに出血をしいる闘いになります。
現段階で3点以上取らなければならない。
どこかでビックイニングを作らなくてはいけない。
この意識にとらわれはじめます。
このマスト(~しなければならない)の意識は、のびのびプレーに鎖をまきつけます。
経験上、このしなければならないという考えになった時点で、縛られてしまいます。こうなると中々いい結果はでてくれません。
これを打破する何か欲しいところですが、2回表の高田イーグルスの攻撃、はやくも連続三振で2死となりました。
こちらが落ちていくと反対に上り調子の新鶴さんのエース、タツキを前に打つ手がない。
ユナも追い込まれてしまいます。
ここはユナに任せるしかない。
ユナも追い込まれて、帰って集中力が冴えてきたようです。
きわどいコースを見極めます。
そして、選んだファーボール。簡単に三人では終わらないという高田イーグルスの強固な意志を示してくれました。
と、ここから少し流れがかわります。
続く、アユキにもファーボール。
そして、ラストバッター、レオ。
その背後には、ゴォゴォゴォゴォというジョジョばりの「俺に打たせろ!俺まで回せ!」というオーラをまとったレンが鎮座します。
レオが決めてもいいんです。長打力があります。しかし、この荒れ球に対して、何でもかんでも振るタイプのレオは分が悪い。
なんとかレンまでまわしてくれ~。
みんなの思いがひとつになります。
それが通じたのか、レオはデットボールで出塁することができました。
さぁ、さぁやってきました千両役者。満を持して高田イーグルスのレンを送り出します。
ここで満塁ホームランがでれば、4点をとることができます。
それを狙ってできるチカラがレンにはあります。
それを新鶴さんもわかっている。
なので、ピッチャータツキはギアをおもいきりあげます。
自然とチカラが入るタツキ。
球威はありますが、すべて高めに浮いてファーボール。押し出しで1点。
次のバッターは、コタロー。
長打力よりもミート力、いろんな状況への対応力を買ってこの2番という打順に存在します。
さぁ頼むぞコタロー。
ピッチャーはコントロールに苦しんでいるから、ボールを打たないように、じっくり……
初球のアウトコースのボール球に手を出してあっさりアウトでスリーアウトチェンジ。
じっくりいけという前に終わってしまいました。
結果的には、レンとの勝負をさけて、1点をくれてでもコタローと勝負をした新鶴さんの勝ちです。
ここはもっと点数が欲しかった。
相手ピッチャータツキはコントロールに苦しんでいました。
レン対してもストライクが1球も入っていなかった。
試合が終わってからの反省点として、初球から行くときとじっくりいくときの徹底が必要だと思いました。
1:1の同点。
この裏の新鶴さんの下位打線、先頭とその次を三振できってとり、ますが、ラストバッターをファーボール。なんとか1番を打ち取って、ゼロで抑えます。首の皮一枚でつながっています。
まだのぞみはある。
時間的に3回が最終回となります。
2点をとって、裏を守り切ることが決勝進出の条件。
この回の上位打線、先頭は3番のユウキからです。
ユウキならば、なんとか出塁してくれるだろうという期待が膨らみます。
前の回をユナとペイのバッテリーとバックがきっちりゼロで押さえてリズムを作っています。
そして、ここ最近のユウキはバッティング絶好調。
私はチームとして、みえない相乗効果があると思うんです。いいリズム、流れというのがピタリと歯車のようにはまる時あります。
ギアボックスのように、小さい力を大きくできる時がある。
もっているチカラ以上のことができる場合があると思うんです。
出塁してくれるだろうなという我々の期待を大きく裏切ってホームランにしてしまうユウキ。
打った瞬間にホームランだとわかる打球でした。
こいつはすげぇなぁと、サードベースを駆け抜けていくユウキを見て感心するしかありません。
ユウキのホームランが高田イーグルスの消えそうな闘志の炎にガソリンをぶちこんでくれました。
ボルテージはどんどん上がります。
そしてやってくるあの雰囲気。
「もしかしたら、俺たちやれるんじゃねえ?」
この錯覚にも似た根拠のない自信。盛り上がるあの状態。
そして、次打者はシュンペイという好打順です。
ペイの顔は俺もやってやる!という闘志に溢れています。
目の前でユウキのホームランを見てます。
ぁぁ~、チカラ入ってんなとすぐ見て取れる。
一息ついて肩の力を抜けといいましたが、おそらく焼け石に水でしょう。
まぁこの場面は一発狙っていいでしょう。
ここはシュンペイに頼むしかない。
長打狙いで、きっちりふりきります。
力でレフトに運び二塁打とします。
続くタイチ。
先の試合でタイムリーヒットをセンターに打っています。ぶんぶん振り回すだけではなく、チームバッティングもできるということを証明してくれました。
ここはヒットが欲しいところですが、ボールをきっちり見極めてファーボールを選びます。
よくやったタイチと小さいガッツポーズ。
こう土壇場でボールを見極めることができるようになったんだなあとタイチの成長を確認します。
さて、タイチが帰れば文句なしの決勝進出です。
この大事な場面、ノーアウト一二塁でマナト。
ここ最近、打撃フォームの改造に取り組んでいました。
前までの当てるだけの手打ちの打撃とは明らかに違ってきています。
打球の速さ、強さが違う。
これまでのマナトとは違うぞというのを、この厳しい実戦の中でこそ発揮してほしいところです。
しかし、タツキも押さえるのに必死です。
マナトにのぞむのはヒット。
ヒットでなくても、ゴロの進塁打。
三振、フライはだめです。
タツキとマナトの激突、ここは三振でした。
その振りを見るに、まだ迷いがあります。
打席に立つ前に、一か八かか当てにいくかの方針の整理、こころの整理がすんでいない様子。
そして、実戦ではなかなか結果が出てくれていません。
なのでますます自信をなくしていく。
それが顔に出てしまっています。
マナトもこころのプールが浅い。
それでもいい、大丈夫だ、信じて進め!
そういうところのフォローが今後も必要だと思いました。
1死一二塁。
ここでエースのユナ。
ユナが倒れると2死一二塁になってしまう。
そうなると1点をとることが更に困難になってしまいます。
ここは仕掛けるしかない。
シュンペイの目をみて、行けと無言のメッセージを送ります。
このあたり、あのほおのき戦のテンカイを思い出します。
今年のチームも目で会話ができまでになったきた。感慨深い。
シュンペイが三塁に到達。
1死で一三塁。ゴロで待望の1点をもぎ取ることができます。昨年の幅を広げました。
しかし、ユナはセカンドフライ。
内野フライではランナーは帰れません。
2死で一三塁。
なんとしても1点をあげなればならない。
バッターは8番のアユキ。
どちらかというとつなぎ役の四年生。
この大一番ではかなり舞い上がっていることは容易に予測できます。
となると、仕掛けなければなりません。
サードコーチャーボックスから、監督を見ます。
監督も私と同じ意図を理解したようです。
それでも迷いました。一回目の逡巡。
タイム!
ん?タイム、かけちゃうかぁ。
ここは私であっても迷う場面となりました。が、監督はタイムをかけました。
一塁ランナーがタイチ。器用なタイプではありません。シュンペイもあせるタイプ。
ここは攻撃のタイムを取ってでも確実に作戦を伝えることを監督は選びました。
タイチには誘導、おとりの進塁を指示し、シュンペイにはタイチがひきつけるスキをついて本塁に突っ込むことを伝えました。
この指示の場面を見ていて、これは監督の確実性がより高いタイムをとってからの指示の方がいいと思いました。
そのほうが両ランナーに迷いが生じない。
相手チームが何か仕掛けてくるとわかってしまっても、作戦を確実に伝えることを選んだ監督が頼もしく見えました。
自分で考えて立案、実行する決断力。
教え子ながら彼も確実に成長しています。
仕掛けます。
タイチをすすすーっと出す。
しかし、新鶴さんのキャッチャーのケイシンもすぐには投げない。
タイチがおとりとして機能しません。
ここでピッチャーサークルに素早く投げられたらば、帰塁するか進むかの二択となり離塁アウトの危険性も出てきます。
おとりをすぐにあきらめて、タイチを進めます。
2死で二三塁。
おとり作戦は未完に終わりました。
アユキ、さらに不安の表情が見てわかります。
さて、どうする?どうする、どうする?
サードコーチャーボックスからシュンペイを見る。
小声で、いきますか!
突っ込んで失敗したら、即終わりのこの状況。
行けというにもかなりの勇気がいります。
今日二枚目の逡巡、迷い、どうしていいかわからず、もう一回シュンペイを見ます。
闘志があふれ出ています。
よーし、わかった。やろう!
ここでやってくるとは、我々以外にわかるはずもない。奇襲としては最高のタイミング。
よし、ここはシュンペイにかけました。
ホームスチールを敢行します。
いけーとシュンペイの背中を押します。
突っ込むシュンペイ。
ホームイン……と思いきや主審にボールが当たっていました。
当たっただけなら、インプレーですが、拾ってしまった。
その時点でボールデッドになり、シュンペイのホームスチールは無効になりました。
起死回生、渾身の仕掛けが空振りに終わります。なんという、何という不運。
もう1球待っていれば、もう1球早く仕掛けていれば……
高田イーグルスにふりかかった不運を呪うしかありません。
奇襲失敗。
この後、2回続けてのホームスチールは私にも決行できませんでした。
無策。
アユキに任せるしかありません。
この重要な場面を弱冠四年生に任せるしかない場面。そうであったとしても、アユキも腹はくくったようです。
果敢に振りにいきますが、空を切る。
追い込まれました。
そして、投げた瞬間にストライクの高さだとわかるコースにスローモーションで、タツキの放った球が入ってきます。
アユキ、あ~ぁと思っても手が出ません。
見逃し三振でゲームセット。
アユキにもストライクだとわかったはずです。
しかし、体が蛇ににらまれたカエルのように反応しなかった。反応できなかった。
自分の目の前をチームの息の根を止めるストライクが入っていくのに、なすすべがない。
とんでもないプレッシャーがのしかかっていたはずです。
しかし、そのプレッシャーに負けてはいけない。
ただ食われるだけのカエルであってはいけない。
今は負けてもいい。
今はまだ手がでないかもしれない。
ただ、この見逃し三振をアユキは忘れてはいけません。
いつか、こういう重大な場面で起死回生の一打を放つ役割が必ずめぐってきます。
いつかくるその時のために、この見逃し三振を次に活かさなくてはいけません。
そうしないと、アユキはもちろん、チーム全体、みんなが浮かばれません。
さて、アユキにはどういう練習をしたらいいものかを考えます。
1番のくすりは、こういう場面を何回も経験させること。
そして、少しずつでもいい結果が出るように、いろんなチャレンジをしていくこと。
少しずつ、少しずつ自信という名の武装をしていきましょう。
そうすることで、いつか蛇を倒すカエルに育つはずです。
それはなにもアユキだけではなく、高田イーグルスのひとりひとりが、そういうカエルの戦士にならなくてはならない。
我々は、そういう気骨のあるカエルのこころざしを彼らの中に育ていきましょう。
あの土壇場の中で、
「コーチ!(ホームスチール)行きますか!」
シュンペイが見せた気骨のあるカエル。
数年前は、打てなくて泣き、守れなくて泣き、負けて泣いていたシュンペイ。
そんな彼もいろんな強さと優しさが備わってきました。
つくづくソフトボールとはそういうひとりひとりの強さの掛け算だと思います。
ひとりがもっている強さの幅。
その最大のところを引き出せば、実力以上を発揮する。
その反対もしかり。
コンスタントに幅の右側の大きいところを引き出せるように我々は練習しています。
ピンチの時にも、チャンスの時にもそれができるかどうか?
それはこころの持ち方に依存しています。
今回の新鶴戦、土壇場で見せたシュンペイの気概。
あれは成功してほしかったなぁ。
しかし、今度こういう場面がきたならば、シュンペイは成功させるでしょう。
そして、シュンペイだけでなく、メンバー全員にも同じ気概をもって、来るべき時に備えるべく準備をしていきます。
かくして、第2回じげんカップ、高田イーグルスは予選敗退で幕を閉じました。
貴重な主催大会で結果を残すことはかないませんでした。
それはそれで、残念で申し訳ないと思います。
しかし、この結果を次に活かすこと。
あーぁ負けた負けた、仕方ない、残念だ、それだけで終わらないこと。
これこそが、保護者のみなさんが高田イーグルスに期待していることであり、われわれ指導者も、選手自身もそうありたいと思っています。
またしても地べたにはいつくばった、カエルたち。
ひとりひとりのカエルは何を思うのでしょうか?
晩秋の空。
次週、ほおのき杯、高田イーグルス単独チームで挑みます。
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